いよいよ集団的自衛権の行使を含む安保法案の、衆議院での採決が行われた。
何としても9月27日の会期末までに成立を図りたい与党としては、参議院に法案が送られて60日間に採決が行われない場合、衆議院の議決を国会の議決とする「60日ルール」の憲法規定の適用を視野に入れる。
衆議院では100時間以上の審議が行われたという。
これだけの長い時間を費やしたわりには、国会での議論が深まった感じがしない。
安全保障の論議で最も警戒しなければならいのは、現実感覚、政治リアリズムの欠如であり、理想を掲げながらも「いまそこにある」現実としっかり向き合うことだ。
世論調査では「総理の説明不足」という声が多くを占めているが、私には、「中国の脅威」という「今そこにある」現実に対して、野党がどうそれを認識してどう対処しようとするのかを明確に示せないので、結局憲法論議という空論ばかりに終始し、現実感覚のある議論にならなかったように見える。
紀元前220年にシナ大陸では、秦の始皇帝が「戦国七雄」と呼ばれた他の六つの国を滅ぼして統一王朝を築いた。
滅ぼされた最後の国は、秦から最も遠地にあった斉(せい)という国だが、斉は秦の甘言に乗せられ、長年、全方位外交と中立政策を守り紛争の局外に立とうとしたが、最後は一矢も交えず降参。
斉が平和を謳歌できたのは、それぞれ隣国が秦に対抗して忙しく、斉の帰趨を顧みるいとまがなかったからであったが、斉は国をあげて、自らが戦わなければ平和が自然に生じると信じて疑わなかった。
これが政治リアリズムの致命的な欠如。
現実感覚の鈍さと主観でしか考えない思考、理想に走りすぎること。
これらはいつの時代、どこの国でも、安全保障の問題で一番警戒しなければならない点だ。
「中国の脅威はあるのか、ないのか」「あるとすれば、わが国は平和を維持するためにどう対処するのか」など、野党は明確にして参議院に臨むべき。