成人式おめでとう。
多くの新成人の皆さんは、今日という人生の節目を、きっとまだ見ぬ将来への希望と不安の入り交じった気持ちで迎えているのだと思います。またそれはいつの時代の若者が共通して持つ思いでしょう。
ただ今日という日に、「子供」気分から「大人」意識へ少しでもハンドルが切れるか切れないかで、皆さんの人生を大きく変えてしまうことになると思います。
そこで今日は、新成人を迎えた皆さんが本当の成功と幸福をその手でつかめるように、私は特に今日唱えたい魔法の言葉をお教えしたいと思います。
それは「ありがとう」という言葉です。
「なぁ~んだ」なんて言わないで、最後まで読んでください。
さて、誰に対して「ありがとう」か。
まず第一に感謝しなければならないのは、何と言っても、皆さんを生み20年間育ててくれたご両親です。当然のことですが、いま皆さんがここにいるのはご両親が生んでくれたからです。皆さんという存在は、ご両親という尊い存在なくしてなかったのです。この当たり前のことにきちっと感謝できることが、「子供」気分と「大人」意識の大きな境目になります。「子供」とは相変わらず「今」を当たり前に思い続ける者であり、「大人」ならば「今」を有り難いと思えなければなりません。
是非今日家に帰ったら、ご両親に「ありがとう」と言ってあげてください。少し恥ずかしいなら、紙に「ありがとう」と書いていつものテーブルにそっと置いておいてください。皆さんのこの一言でご両親がどんなに嬉しいか。救われた気持ちになるか。皆さんも人の親になったとき初めてわかります。
次にご両親に感謝できたら、その尊い両親を育んでくれた故郷、つまり日本という国にも感謝できなければなりません。今の日本を支えている多くの人々だけでなく、この素晴らしい国を築いてくれた先人たちに「ありがとう」という気持ちを持ってほしいと思います。
私は杉並区長として11回、区主催の成人式でお話をしてきましたが、新成人の皆さんに感謝をしてほしい多くの先人たちの一人として、約70年前に戦死された20歳の若者の遺書を読んできました。その遺書は、靖国神社に納められている「英霊の言の葉」という、戦争で尊い犠牲をはらった方々の遺書集の中から選んだものです。
「お父様お母様。ただいま出撃命令がでました。私は立派にやって参ります。本当はその前に最後のお礼とお別れを申し上げたかったのですが、その暇もなく行かなければならないことをお詫び申し上げます」
「私の鞄には、缶詰やお酒が入っています。軍から支給されたものを皆様とご一緒に食べようと残しておいたものですが、それも叶わぬ夢となりました。どうか皆様で召し上がってください」
「それでは行って参ります。長い間お世話になりありがとうございました。お体お大事になさってください。ごきげんよう。さようなら。」
といった内容ですが、この遺書を読み始めると、いつも会場は瞬く間にシーンと静まり返ります。
こんな20歳の方もいらしたのです。今日皆さんはきれいな着物を着て、友人と美味しいものを食べて楽しい成人式を過ごされると思います。また皆で今日のおめでたい日を楽しく過ごすこともいいことでしょう。しかし今日乾杯する時には、どうか「70年前にこんな20歳の方もいたんだ」ということを思い出して、このような私たちの国を残してくれた先人たちにも、心の中でそっと「ありがとう」と言って乾杯してほしいのです。そしてその人たちの分まで、これからの人生を大事に生きてほしいのです。
そしてその人たちが尊い命をかけて守ろうとしたこの日本という国を、今度は皆さんの手でもっと立派な国にして、次の世代につないでいってほしいのです。
皆さんというかけがえのない存在を世に送り出してくれたご両親に「ありがとう」と感謝でき、そしてその尊いご両親を育んでくれた私たちの国を築いてきた多くの方々にも「ありがとう」という気持ちを持てた時、皆さんは初めて「大人」の仲間入りができ、皆さんの人生が実りの大きいものになっていくと思います。
今日はそんな日です。
だから、おめでとう。