日本を知ることで、日本人としての誇りを醸成する。
志誌『Japanist』24号(2015年1月25日発売)に掲載された、山田宏の連載インタビュー Vol.2。
Japanist Interview
「日本型州制度」で、日本を根本から変える
経営感覚に富んだ統治機構へ
髙久 多美男(Japanist編集長 以下:高久)
前回は、「何が人間にとって幸福か」という本質的な命題について語っていただきました。それが定かでなければ、国づくりの理念を構築できないと思うからです。その点、山田さん、及び次世代の党が目指すところはかなり明白に示されていると思います。それでは、課題山積のわが国を根本的に変えるためには、なにが有効と思われますか。
山田 宏(以下:山田)
もはや小手先の改革でどうにかなるというレベルではないということは国民の多くが気づいていると思います。私は日本型州制度の導入こそ、日本を根本から変える転機になると考えています。ちょうど、江戸から明治に変わるとき、時の為政者たちが廃藩置県を断行したように、こんどはわれわれが統治機構を変えるのです。松下幸之助さんの言葉を借りれば、廃県置州ですね。
髙久
復習になりますが、廃藩置県はどういう意図があったと思いますか。
山田
江戸時代は三百余藩による分権型統治機構でしたが、殿様をすべてとりつぶして統治しやすい規模と数の県を置き、中央政府が選んだ県令や県知事が中央政府の政策を遂行するという、いわば中央集権型によって近代国家をつくりあげるための基礎固めが廃藩置県だったということです。
髙久
明治維新は武士の力によってなし遂げられたにもかかわらず、いきなり二〇〇万人に及ぶ武士階級が身分を失ったのですから、情け容赦ない大改革だったといえますね。ところで、山田さんが提唱なさっている廃県置州、つまり日本型州制度は、廃藩置県の逆にするということでしょうか。
山田
日本型州制度は、それぞれの地方で独自の工夫をしてもらい、それぞれの特色を発揮しながら自立してもらうということを目的としています。ですので、江戸時代の分権型統治機構に近づくといっていいと思います。
髙久
国の役割をできる限り小さくするということでもありますね。
山田
そうです。外交、防衛、基礎教育、金融政策を含めた通貨、そして最低限の福祉などは国が担い、一方、州の役割はかなり大きくします。産業・経済政策、インフラ整備、国土開発、農林・水産、高等教育などです。わかりやすく言えば、財務とか外務などという二文字の省は国が担い、通商産業とか国土交通とか農林水産といった四文字の省は州が担うということです。
髙久
それだけの権限を地方に移譲するとなると、かなりの抵抗勢力が現れるでしょうね。
山田
都道府県制度の行政機構にのっとって地位を得ている人たち、例えば、知事や市町村長などの首長、地方議会議員をはじめ、行政にぶらさがっている業界団体、地方を監督する権限をもっている中央官庁など、ありとあらゆる人たちが抵抗するでしょうね。
髙久
それほどの抵抗が予想されるにもかかわらず断行しなければならないという根拠は何ですか。
山田
現在、日本の国家予算は約九七兆円ですが、五年前までは約一〇年にわたって八五兆円くらいだったんです。わずか五年間で一二兆円も増えてしまいました。どうしてこんなに増えてしまったのかといえば、高齢者が増えたからです。いわゆる団塊の世代が定年退職し、年金や介護など福祉の対象者となりました。そのため、かなりのスピードでコストが上昇しているのですが、当初国債発行でまかなっていた分の一部でも消費税増税でまかなおうとしているわけです。財務省の試算によれば、現行の制度を維持した場合、九年後は国の予算が一四四兆円に膨れあがります。そのとき、仮に消費税を一〇パーセント、名目経済成長率を二%とすると、予想される税収は七六兆円です。では、その差額六八兆円をどうやって埋めるのか。いま、国債を年間四〇兆円くらい発行していますが、仮にそれを維持できたとしても残りの二八兆円をどうするのか。僕は年間四〇兆円もの借金をし続けることはできないと思っていますが、仮にそれができたとしても大幅に税収が不足するわけです。
髙久
そういう状況下でできることは限られてきますね。
山田
そうです。ひとつは消費税を上げること。もうひとつは福祉を削ること。これ以外に選択肢はないんです。消費税はあと一〇%は上げざるをえないだろうなと思います。一〇%上げればだいたい二五兆円は確保できます。あとの三兆円は社会保障費を削るんですね。どうやって削るかといえば、給付を減らして負担を増やす。このままだと、そういう世の中が一〇年後にくるんです。つまり、税金は倍に上がり、福祉は削られるという未来しかわれわれにはなくなるのです。しかし、私はそれではダメだと思うのです。政治家である限り、そういう灰色の、いや真っ暗な未来ではなくて、努力をすれば解決できる仕組みづくりをしなければいけないと思っています。
髙久
具体的にどうするのですか。
山田
現行の国の経営の仕方を抜本的に改めて無駄を排除し、しかも人口は減っても経済を成長させる、そういう方法はないものかと考えた場合、まったくないということはないと思います。この前、私はシンガポールに行ったのですが、シンガポールは一人あたりのGDPが日本を抜いてアジアでトップになりました。つまり、アジアでもっとも豊かな国になったのです。では、シンガポールはもともとそれほど豊かになれるような国だったかといえば、そうではありません。シンガポールは一九六五年、マレーシアから独立したのですが、独立運動によって独立したわけではなく、マレーシアから追い出されて独立したわけです。シンガポールは今でも食料を一〇〇%、水を六〇%、エネルギーを一〇〇%輸入しています。国の存立にかかわるもののほとんどを外国から買わなければなりません。では、それらを買うための原資をどうするか。当時、リー・クワンユーという卓越したリーダーが現れて、なかば独裁的な手法で国を豊かにするための政策を打ち出し、実行しました。軽工業から始まり、電子部品、今はバイオ技術にいっていますが、その時々で世界で一番ビジネスをしやすい国にして世界で稼ぐことのできる企業や人を誘致し、つねに変化させながら国の食い扶持を確保してきたのです。
髙久
まさしく国家経営ですね。
山田
そうです。シンガポールの国土は淡路島くらい、しかも人口は約五〇〇万人。こういう条件の国でも国家経営次第では日本を追い抜くくらいの経済的な豊かさを実現できるという事実は非常に貴重だと思います。日本は人口一億三〇〇〇万人近いですからシンガポールのやり方をそのまま導入するのは難しいですが、国土を一二か一三くらいの地域に分けて人口一〇〇〇万人くらいの規模にし、それぞれの地域にシンガポールのような権限を与えて経営をさせたら、ものすごく変わりますよ。
髙久
日本はもともともっているポテンシャルが高いですし。
山田
そうです。日本は人的資源も歴史も文化も自然資源もきわめて豊富ですし、権限を与えられれば有能な経営者も現れ、それぞれの地域が競争することによってお互いが切磋琢磨し、その地域らしさが磨かれて結果的に日本の富が大きくなるはずです。例えば、九州には七つの県がありますが、どの県にも空港があります。一番新しい空港は佐賀空港ですが、知事や市長でさえ福岡空港を使っているような現状で、もちろん赤字です。そんな風にして日本全国至るところに新幹線や港湾をつくってきたんです。どこの県にもベルリンフィルが演奏できるようなコンサートホールがありますが、ベルリンフィルなんて来ませんよ。ときどき学校の音楽祭をやる程度です。そういった無駄があらゆるところで行われているのです。しょせん、税金は「他人のお金」だからです。
髙久
企業であれば、あっという間に経営破綻しますね。
山田
そういった経営感覚の欠如した国家運営をしてきた結果、今のような膨大な財政赤字に膨れあがってしまったんです。なぜ、そのような無駄遣いが続いてきたかといえば、都道府県単位で行われているからです。都道府県制度は、人力車や馬車しかなかった明治時代にできたものです。新幹線やジェット機やインターネットが普及した現代においては行政の非効率さの原因になっています。いま、東京以外の道府県は自力で立つことができません。もし、これが九州「州」というひとつの単位で経営をすれば、インフラや産業誘致も含め、無駄のない経営ができるはずです。同じように、北海道州は北海道らしい、東北州は東北らしい経営がなされるはずです。北海道は人口約五百万人で、気候風土はデンマークに近いといえます。しかし、一人あたりのGDPにおいてデンマークは北海道の一・五倍です。観光資源など北海道がもっているポテンシャルを勘案すれば、北海道がデンマークを追い抜くことは可能ですよ。また、中部州はアジアのスイスを目指すことも可能です。つまり、各州が経営感覚のあるリーダーを選び、創意工夫をすれば、人口が減っていっても豊かになれるんです。
髙久
江戸から明治に変わったときと同じくらいインパクトのある統治機構の大改革ですね。
山田
人口減少や高齢化にともなう社会保障費の急増など、日本の将来は真っ暗ともいえますが、中央集権を遂行するための都道府県制度に替わって大胆な地方分権に統治機構を変え、日本人のもっているポテンシャルを引き出すことができれば、さまざまな難題を解決することができると思っています。
髙久
その大改革も、日本のポテンシャルが残っているうちにやらないと成果はあがらないような気がします。
山田
一〇年以内にやらないとダメでしょうね。このまま無駄の多い統治機構を続ければ、財政は逼迫し、重税を課さなければならなくなります。そうなると優良企業や資産家たちは海外へ出て行ってしまいます。税金を払ってくれる人たちを追い出して、いったいだれが税金を払うのか。むしろ世界中から優秀な企業や人材を集めるような環境づくりをすべきです。日本国内でもビル・ゲイツのような人材がたくさん現れるような、そんなチャンスの多い国にしなきゃダメですよ。今のままの無駄の多い統治機構を続ければ、国民がどんなに汗水垂らして頑張っても、福祉は削られる、重税は課せられるというような最悪の国になってしまいます。それを突破するためのもっとも有効な方法が廃県置州だと思っています。
髙久
堺屋太一さんがおっしゃっていることもこういうことですよね。
山田
そうです。それから税金の使い道ですが、これから増えると予想されるのは、介護や医療や年金などの社会保障費なんです。他の文教や防衛や国土開発はこの二〇年間ほとんど伸びていないんです。
髙久
つまり、社会保障費の使い方にもメスを入れる必要があるということですね。
山田
そうです。例えば、今の医療の最大の問題は、出来高払い制度にあります。医療機関からすれば、たくさん患者さんが来てくれることが収入増につながるわけです。ちょっと語弊があるかもしれませんが、患者さんが増える方がいいわけです。病気を減らすことは国民にとってプラスですが、現行の制度では、医療機関にとっては必ずしもプラスになるとは限りません。本来であれば、病気にならないような取り組みに国民の税金は使われるべきです。しかし、現行の制度は予防医療にインセンティブが発生するような内容じゃない。ところが、国民の側にたった改革をしようとすると医療機関や業界団体など、現行の制度にぶらさがっている人たちがすべて反対します。これは都道府県制度にぶらさがっている人たちが国の統治機構改革に反対するのと同じです。
髙久
結局、明らかに国民にとってプラスになるとわかっていても、既得権益者の反対によって阻害されてしまうということですね。
山田
残念ながらそういうことなんです。しかし、それではいつまでたっても事態は変わらないどころか悪化するばかりですから、いかに反対が多くても大所高所にたって改革を進める必要があります。私は政治家という地位が欲しくて政治家になったわけではなく、国民にとって必要なことを推し進めるために政治家になったわけですから、どんなに批判を浴びようと信念を貫こうと思っています。
髙久
山田さんのそういう姿勢は、以前から少しも変わっていませんね。時代の大きな変わり目にあって、ほんとうに必要なリーダーはそういう方だと思っています。これからも期待しています。
●森 日出夫:撮影
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